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【footballほぼ日】 中田英寿 衝撃の引退から12年。日本サッカーはあの日から世界に近づいたのであろうか。

2018/05/24 11:35配信

飯守 友子 (CHANT編集部)

カテゴリ:コラム

 

衝撃の引退から12年。改めて考える なぜ中田英寿は12年経ってもなお日本最高選手と評されているのか。

2006年。
W杯ドイツ大会。

日本サッカーに本格的なブラジルイズムを選手としてピッチの上から立ち注ぎ込んだ
日本サッカーの成長の歴史を語るに絶対的に外せない人物であるジーコ氏が監督として日本代表を率いた
2006 ドイツW杯。

世界に最も近づいた黄金世代と呼ばれる世代が、選手として最も良い時期を迎えたことや
前回大会では選出外となり悔しいという言葉ではおさまらないほどの感情を持ち世界に出て経験を積み、ついに日本の10番を背負いW杯に挑戦した中村俊輔、
日本代表史上最も高く険しい壁となった中澤佑二、田中マルクス闘莉王のセンターバック…
そしてなにより。
その名を世界のトップ選手たちと同等に響かせていた 中田英寿がいたことで
チームが世界に近づくことができるのでは、という期待が大きかった。

ジーコ監督は、戦術により縛り付けるサッカーではなく、ブラジル式の個の自由を与えるサッカーを日本代表に落とし込んだ。
その結果、自由という枠のないサッカーが選手たちの個をぶつける結果となってしまい
ワールドカップでは

vsオーストラリア 1-3
vsクロアチア 0-0
vsブラジル 1-4

1分2敗という結果で、グループリーグ敗退。
完敗となったブラジルとの試合後、センターサークルの中で倒れ込み、仰向けとなった中田英寿は
長い時間、涙を流し
その試合後、引退を表明した。

中田英寿、30歳。
誰もが引退するなんてことは、考えもしていなかった衝撃。
日本サッカーという枠を良い意味で壊し続けた開拓者は、突然の最後を迎えた。


あれから、12年―。

2018年となり、ロシアW杯が開催される。

●中田英寿が世界のサッカーに通用した部分は、どんなところだったのか。

当時、世界基準に日本代表が到達していたかと振り返ると
チームとしては残念ながらNOだった結果になってしまったが、中田英寿という日本人プレーヤーは
世界基準に到達していたであろう。

中田英寿という選手は、どんな選手だったのか。

中村俊輔のようなファンタジスタタイプでもなく、名波浩のようなゲームメーカー・パサーでもない。
天才と評される中村俊輔や小野伸二とはまた違うタイプ。

中田英寿が世界で評価された点はどんな点だったのか。
キラーパスという名が付いた、鋭いパスが有名だが中田英寿の第一代名詞はそこではないであろう。

ボールを相手の届かないところに一度出すという配置ができる選手。
相手が届かない距離感を一瞬で創り出し、先に相手選手よりも先に身体を入れてボールを奪わせないフィジカルの強さ。

例えば。
中田英寿がボールに触ろうと追う。
そのボールに相手も走り出している。
この走り出した時点で自分が先に触れるか、相手が先に触るかの判断がすでにまずできている。
この判断は非常に大事で、自分が先に触れるという時のその後の動き・触れないという判断の時の次の動きに早い段階で移れること。
ここが重要だ。

ギリギリで先に触れるという判断をした場合。
ギリギリだからこそ、相手も足を出してくる可能性を見越して、相手の足が届かないところに一度ボールを別のスペースに出してから
改めてそのボールを自分で取りに行くことができる選手だった。

多くの選手がそこで相手と交差してぐしゃ!っとなってしまう場面。
今の日本代表の試合でもよく見る場面だが、ぐしゃ!となってしまってボールはどちらのものになるかわからないルーズボールとなったりする。
相手に取られた場合は、ぐしゃっとなってしまっているところから身体を起こすまでにタイムロスができてしまう。

しかし、中田英寿はいったん相手の届かないところ なおかつ自分がすぐに転換してボールを持てるところにボールを配置することができた。

先に触れないと判断した場合には、次のプレスをかける方向にすぐに入ることができた。

こういった判断というのは、実に目立たないものだ。
ボールを持って鮮やかに相手を抜き去ったり、足元で華麗にボールにタッチし相手を惑わせて抜くようなプレーが
素晴らしい!うまい!と評価されがちだが、実はボールをこねた分だけ時間がかかっていることになる。
そのほんの少しの時間で次の相手が寄せてきていたり、1対1で対峙している意外の選手に次の判断の時間を与えていることになる。

もちろん足元の技術ある選手は、鮮やかで魅力多く、見てみてワクワクする。
チームを創る上で必要となる選手かもしれないが、日本人ではじめて世界に名を響かせた中田英寿はそういったタイプの選手ではなかった。
華麗ではなく、目立たないプレーかもしれないが、確実に相手にとって嫌な選手。
鋭い判断とセンスを持っていたのが、中田英寿だった。

おそらく。

引退して12年という時間が経った今でも、当時の中田英寿が日本代表でプレーしたとしても通用することであろう。

他にも日本サッカーに多くの功績を残した選手たちが日本にはいるが、
他の選手たちが現代の日本サッカーに順応することができるかといえば、NOだ。

10年以上も経てば、世界的にも日本的にもサッカーは進化している。はずだ。
それでも当時の中田英寿以上の選手が今なお出てきてはいないのが現状で、
現在の日本代表に12年前・当時30歳の中田英寿が入ったとしても、おそらく世界基準を持ってプレーできてしまうだろう。

あの日よりも、進化は遂げているのかもしれない。
ただ、12年前の中田英寿だけではない。当時の中村俊輔や小野伸二、稲本潤一といった選手たちが今だったとしたら。
ありえない話ではあるが、12年経った今の日本代表は、本当ならば進化を経て当時の力よりもずっと先にいなくてはならないだけの時間が過ぎているはずだ。

しかし―。

 

●「第二の中田英寿」またはそれ以上の「世界基準」を生み出す可能性


日本ではスペインサッカー=バルセロナのような美しいパスサッカーがとにかく評価されているように感じる。
日本サッカー協会は、2010年にスペインと育成の面でパートナーシップ協定を結んだ。

スペインは美しいパスサッカーをするチームとするために確かに選手たちを育てているが、
今鳥栖に加入するのではと報道されているF・トーレス等、明らかに鮮やかなパスサッカーに適するタイプの選手ではない世界的な選手も生んできた。

どこにパスを出すか、どこにパスを繋ぐか、ボールを持って相手を何人抜けるか、という足元技術の練習も大事なのかもしれないが、
相手の足に届かない位置にボールを置く、身体を使って相手をボールに触れさせない、ボールに向かっていく相手と自分の駆け引き等
文字にすると細かく聞こえるが、そういったボールとの距離感や相手との間合いなど自分で「感じる」部分の感覚の大切さを
小さな頃から意識し、当たり前とすることで「第二の中田英寿」の誕生や、それ以上を生むことができるかもしれない。

世界で多くの日本人選手がプレーしている今日。
ミランで10を背負った本田圭佑。
ドルトムントで活躍し、マンチェスターUに所属した香川真司。
レスターでプレミアリーグを獲った岡崎慎司。
…その他にも、多くの日本人選手たちが世界を舞台に躍動している。
中田英寿が世界に挑戦した時よりもずっと、その功績は大きい。

しかし、世界的にみると
日本=Hidetoshi Nakata.
今もなお日本人選手といえば、中田英寿という印象に変化はない。

パスを繋いでポゼッションをするサッカーで世界を前に倒れた、前回大会。
W杯優勝という言葉を口にして、自信を持って世界をひっくり返す覚悟を持って挑んだブラジル大会では
1分2敗。

惨敗と評された大会だったが、その差はどんなところにあったのか。
一番の差は、ボールまでの距離だったように感じる。

あと、1歩。2歩。
ボールに触るまでのあと1歩、2歩のところで世界との違いが出た場面が多かった。

その1歩、2歩のところが大きな差というが、果たして本当にそうなのであろうか。
世界の選手たちとのフィジカルについては確かに違いはある。
1歩の歩幅や足の長さの部分も確かに関係する部分はあるかもしれない。
しかし、その1歩が先に読めていたら?
どちらが先にボールに触るか、相手がどの位置に置けば触れないかを判断できていたら?
ぐしゃっとなってルーズなボールになる回数が少なかったら?
相手も驚くような一刺報いる鋭いパスを出せる選手と、それを共有して反応できるサッカーがあったなら?

たら:ればで、そればかりが答えではない。
しかし、中田英寿が繋ぎ与えてくれた可能性を引き継いで、日本サッカーが世界と戦うために
必要である感覚やセンスを養うためにはどうしたら良いのかという部分を追求するのも良いのではないであろうか。

第二の中田英寿は、まだ生まれてはいない。
しかし、感覚的に一番近い感覚を持っていると感じるのは、井手口陽介(クルトゥラル・レオネサ)。
ワールドカップの代表に選出されるか、ワールドカップに出場できるかもまだわからないが、
井手口が魅せる 美しいパスサッカーだけがサッカーではない「世界」がロシアW杯にあるかもしれない。

内容は関係ない。結果がすべて。
という言い方をする人たちもいるが、内容は重要だ。
それは、なぜか。
その内容によって日本が世界にどれだけ近づいているか、という部分を図ることができるからだ。
良い試合をした、ボールをどれだけ持てた、というところではなく
相手を欺くようなプレーはあったか、フィジカルで勝てた場面はあったか、相手の想定になかったプレーができたか。
そういった部分があったか、なかったかというのは非常に重要な部分だ。

内容とは、勝つために必要なことではなく。
今後の成長に、必要な部分。

ドイツW杯 中田英寿の引退から12年。
世界的といわれる日本人選手がいるチームでも、苦しい戦いとなり倒れたあの日。

W杯、ロシア大会では「世界」と戦える日本代表を感じることはできるであろうか。

あの日から、日本は世界に近づいているのだろうか―。


 

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