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【浦和レッズ】 目標と向上心、プロフェッショナルを伝え生んだ「ミシャの飴」 いつか伝えたい、ありがとう。 【J1】

2017/08/02 08:08配信

飯守 友子 (CHANT編集部)

カテゴリ:コラム


ミハイロ・ペドロヴィッチ氏が、浦和レッズの監督を解任されました。

このように至った経緯・事実関係や振り返りは、多くのメディアからたくさん記事として発信されたので。
ここではそういったお話ではなく、個人的にはなってしまいますが、この場を借りて
ペドロヴィッチ元監督に伝えたかったこと、小さなことかもしれませんが、私にとっては大切にしている出来事を 書かせていただきたいと思います。


浦和レッズというクラブは、長年に渡りJリーグ全体を引っ張る存在であり、日本のプロサッカーの発展を担う欠かせない存在であると感じてきました。
浦和だけが、というわけではありませんが、ひとつの高い「基準」であるようなそういった感覚を持っていました。

CHANTで文章を書かせていただくようになってからは、日本のサッカーをJリーグを「知る」ために
浦和レッズの試合を観ておかなくては、と意識し、何度も足を運び感じてきていました。

他のクラブ・チームの試合や選手たちの戦うことへの背景にも魅力がたくさん詰まっていて、伝える側としてひとつに偏るのではなく多くのカラーを観て感じ、触れて伝えるという意識を置いている中で
浦和レッズ、ペドロヴィッチ監督のサッカーを観ることは、サッカー観が広くなるような感覚といいますか、プロフェッショナルを感じながら最先端を観られる、そんな感覚を持って観ていたのかもしれません。


2年前―。
天皇杯で、取材を重ねていたチームと浦和レッズが対戦となりました。
対戦相手としてですが、CHANTとして初めての浦和レッズ、初めてのペドロヴィッチ監督となる取材機会でした。

私は、対戦したチームの取材をするためにメディアとしてその試合に足を運びましたので、中心は浦和レッズではなかったのですが
日本サッカーを引っ張る存在を前に、敬意を持ち高まるものがありました。

その日は、継続した取材をさせていただいている大学サッカー部様へと先にお邪魔し、取材をさせていただきました。
その後、車で2時間半ほどかけて天皇杯の会場である地へと向かったのですが、現地に到着してから、あってはならない自分の大きなミスに気付きました。

取材の際、私は現地に早めに到着を心がけ現地の空気を少しでも感じながらと思っているのですが、その日は過密なスケジュールを組んだ自分の甘さもあり時間ギリギリで現地に到着し、慌てて荷物を持って車から降りようとしたのですが、
取材する時に持っている仕事道具の一式がないことに気が付きました。
先に取材をさせていただいた現場に、取材道具一式を忘れるという、取材先のみなさんにも迷惑をおかけする失態を犯してしまっていたのです。
まさか、でした。自分に情けない気持ちというか短い時間ではあるものの茫然と立ち尽くすというのはこのことか、というほどの出来事でした。

それでも、これだけの文明といっても良いほどに発達している機器たちが当たり前となる前は、
ICレコーダーもパソコンも双眼鏡もなく、目と記憶とペンとメモだけで取材をするのが当たり前だったはず。物がないから取材ができないではなく、取材をするのあたって便利であるものたちないだけ、と切り替え
かろうじてバッグの中に入っていた一本のボールペンと、配布された公式メンバー表の裏を使用する形でメモを小さい文字で必死に書き綴り、
見たもの・感じたものの感性を研ぎ澄まし、いつも以上に集中し、記憶するということに意識を置き、取材を進めていました。

試合は浦和レッズが勝利し、コレが浦和だという強さを巧みさを感じさせる試合でした。
試合後の監督会見では、先に敗戦となったチームの監督が会見をし、その会見後には選手たちに試合後の話を聞くためミックスゾーンに多くのメディアの方々が向かう中、

私は試合後ペドロヴィッチ監督がどんな見解を持ち、どんな言葉でこの試合を振り返るのか、対戦相手にどんな印象を持ったのかという部分が知りたかったので
取材対象チームの監督の会見が終わってもなお残り、ペドロヴィッチ監督の会見を一番前の席で聞きました。


ペドロヴィッチ監督の会見がはじまり、私はとにかくペドロヴィッチ監督の目を見て話を聞くことを意識しました。
監督会見は記事を作る上でも、試合を遡るにも重要であることが多いので、メモをとったりパソコンに打ち込むことが多くデスクに目線がいきますが、
手元でメモを書きつつも、とにかくペドロヴィッチ監督の話す内容を聞き逃さずに理解しようと必死で、目を見てお話を聞きました。
杉浦コーチの訳した言葉に集中しながら、どんな表情でそれを話しているのか、どんなところに力を入れて話すのかというところが知りたかったからでした。

日本サッカーの最先端と先に表現しましたが、そういった感覚を持っていたこともあり、
ペドロヴィッチ監督の話すことはどれも刺激的で、浦和愛に溢れた言葉が多く並び、浦和レッズというクラブへの誇りを語る部分が多く、
知りたいという眼差しを送るとしっかりと目を見て、丁寧に言葉にしてくれる、そんな印象を持ちました。

ICレコーダーがないので、その言葉のひとつひとつをしっかりと記憶しようと、記憶と手元のメモを集中してフル回転し、ペドロヴィッチ監督の長い長い会見が終わりを迎えてすぐに
手元のメモを確認しながら、自分の言葉でスマートフォンのレコーダーアプリに吹き込もうとしていた時。

気づくと、私の目の前にペドロヴィッチ監督が立たれていました。
あまりに突然のことで驚いている私に、飴を差し出し、手渡してくださいました。

「ミシャの飴」。
いつもペドロヴィッチ監督がメディアの方や中継関係者の方、運営の方などに飴を配る様子がゲーム中継の監督インタビューの後などで流れていて、
恒例になっていたペドロヴィッチ監督の周囲への「お気持ち」である飴。

試合中、監督は大きな声を出し選手たちに指示を送るため、ノドを痛めることも多く、
監督をされている方たちは試合中ノド飴を舐めている方も多いので、おそらくペドロヴィッチ監督もそういった理由で飴を常に持っているのでしょう。

その光景を画面通して見てきたのですが、目の前でその飴を渡されるのがまさか自分だとは思わず
対戦相手を伝えるメディアながら、非常に嬉しかったことを昨日のことのように記憶しています。

その日仕事道具を忘れてしまったことで不安と緊張を持ちながら集中を続けていた時間が、飴をいただき声をかけていただいたことで
焦り続けていた気持ちに、ひと呼吸のように落ち着きを取り戻すような感覚となりました。

きっと、これまでに多くのメディアの方が「ミシャの飴」を渡され、それが恒例のようになってなにも珍しくはないという取材者の方も多かったかもしれません。
でも、私にとっては特別な特別なものとなりました。

「ミシャの飴」は、私にとっては特別すぎて、食べることができず、
その日から自然と大切な、お守りとなりました。

仕事用のペンケースの中にいつも入れている、あの時の飴。
大事な仕事の前には、それを握りしめて良い仕事ができますように。平常心、平常心。と唱え、願うこともあります。

もう2年も経ってしまったので、袋の中で飴はほとんど溶けてしまって平べったくなってしまっていますが、
いつかこれを持って、ペドロヴィッチ監督に「あの日はありがとうございました」と、感謝を伝えたいと思っていました。

取材者であってもまだまだ未熟で、多くの葛藤と戦います。
今日はちょっと失敗したな、今日はちょっと行き過ぎたかな、なんて悩む日もあります。
それでも、この飴の存在を思い出しあの日の取材を振り返ることで、初心に戻ることができ、また頑張ろうと思い直し立ち上がることも何度もありました。

たった ひとつの飴かもしれません。偶然的に私がそこに座っていただけかもしれません。
それでも、取材者としてもっともっと経験して、いつかペドロヴィッチ監督に質問を向け会話として取材として成り立つことを目標にするほどに
モチベーションとなった 大切な飴となりました。

CHANTが媒体としてたくさんのfootballをたくさんの方たちに伝えられるよう、駆け出した時から懸命に走り続けていた中でのひとつの大きな経験でした。
もっと頑張ろう。もっと走ろう。とプロフェッショナルな会見と気遣いを感じた日となりました。

―7月29日。
北海道コンサドーレ札幌との試合後に、あの日のお返しをと北海道名産のノド飴の用意をさせていただいていましたが、
試合結果もあり、渡すような状況ではなかったので、今はお伝えするタイミングではないと察し控えさせていただいたのですが…
「浦和レッズのペドロヴィッチ監督」には、もうお会いすることはできなくなりました。


「浦和のペドロヴィッチ監督に」というのは、もう叶うことはありませんが。
サッカーがある世界にいる限り、また必ずfootballを通じ、お会いできると信じて
「ミシャの飴」を持って、これからもさまざまなチャレンジをして、良い仕事と言われるよう準備を怠らず
これからも「伝える」を目標に、進みたいと思います。

袋の中の飴が完全に溶けて空っぽになってしまうその前に。
必ず、あの日の「ありがとう」を伝えに―。

Good!!(100%) Bad!!(0%)

素晴らしいお話をありがとうございました。本当に良いお話で、大切にされてきたことも伝わり、何度も読ませていただきました。愛情溢れる文章に涙が出ました。素敵なお話を書いてくれてありがとうございました。

名無しさん  Good!!2 イエローカード0 2017/08/03|09:28 返信

凄いです。
なるほど、ミシャ=飴ですか。
当たり前過ぎて忘れていました。浦和レッズの試合の後にミシャの飴配りを観る事はもう無いと思うと寂しさが込み上げて監督が解任になった現実を漸く実感しました。ミシャには大変お世話になりました。感謝しかありません。

名無しさん  Good!!4 イエローカード1 2017/08/02|10:16 返信

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