CHANT(チャント) 日本代表

日本vsタイ 「繋げないこと前提 ハリルの作戦とその下地」

2017/04/03 19:22配信

武蔵

カテゴリ:コラム

日本がタイに4‐0で快勝しました。

これにより、危惧された3月シリーズも2連勝、得失点差も躍進し

ロシアW杯アジア地区最終予選B組で首位に立ちました。


結果の比重が高く、最優先と言っても良い最終予選において

そして、その危惧そのものと言えた長谷部誠の離脱を跳ねのけて

日本代表は最良の結果を手にしたと言えるでしょう。

とても喜ばしいことです。


しかし、UAE戦後と同じく、もしくはUAE戦後以上に

内容に関する議論が活発です。

そして、それらの多くはネガティブなものです。

タイ戦における、ボランチを中心としてビルドアップに関する問題に関しては

そういったネガティブな論調が増えるのは致し方ありません。


実際に、ビルドアップでの体たらくは、攻守において悪影響を及ぼしました。

体格の劣るタイに、コーナーキックから許した、いくつかの決定機は

いずれも拙いビルドアップからボールを奪われ、CKに逃れたものでした。

そこでもって、本職でないボランチ起用となった酒井高徳は批判の目に付きやすく

また、その任命責任があるハリルホジッチ監督に矛先が向くのは一理あると言えます。

ハリルホジッチ監督も、冗談めかしながら

「私は批判の素を提供したのかもしれない」

としました。


ただ、会見でのハリルホジッチ監督には

4‐0で勝ったというだけでない余裕を感じたことも事実です。

そして、ハリルホジッチ監督の選手起用、そしてタイ戦での戦い方を見ると

あの状況は織り込み済みであったのではないか?と見ることができます。

そして、そう思い至るための状況証拠が垣間見えるのです。

今回は、それらについて考えてみたいと思います。

酒井高徳のボランチ起用の妥当性

試合を通して問題であり続けたのは

上でも挙げたとおり、ボランチを中心としたビルドアップに関することです。

ではなぜ、ボランチ周りに問題が生じたかといえば

それは相次ぐボランチの離脱に端を発すると言えます。

長谷部のみならず、今野泰幸や高萩洋次郎がケガで離脱しました。

ここが全ての出発点です。


残された山口蛍は、日本代表において「1人立ち」しているかというと微妙です。

そのプレーは、長谷部にコントロール、そして保護をされる形で生きると言えます。

つまり、彼はアンカータイプではなく

できれば、攻守ともに味方DFラインの前で貢献できる選手と組ませたいところです。


加えて、タイの体格というものがあります。

日本代表がタイ代表と戦う時に、常に重要となるのが体格の優位性です。

特に中盤のことであり、体格での優位性が使える状態であれば

それを優先させるのも一つの選択肢です。

山口蛍と組むのが、例えUAE戦と同じ3センターとしても

純粋な後ろの選手でなく、体格にも恵まれない香川真司や倉田秋では不安だという事は

監督の好み、得意分野もあるでしょうが、考慮せねばならないところです。

その結果として、酒井高徳がボランチとして起用されました。

彼は迷えるハンブルガーSVにおいて、シーズン途中からボランチとして起用され

さらにはゲームキャプテンにも就任し、チームは自動降格圏から脱出しています。

ブンデスでボランチを務める彼は、180cmは無くとも、そうそう当たり負けしません。

ボランチの経験、そして成功体験が無いわけではありません。



試合勘の無い本田圭佑の招集を例に出すまでもなく

選手選考というのは相対的なものであり

酒井高徳のボランチ起用は次善策として、妥当性が十分にありました。


ただ、経験が無いわけではないというだけで、経験不足は否定できません。

実際に、主にビルドアップにおいては、やり玉に挙げられるレベルでした。


しかし、スコアは4‐0です。

サッカーにおいて、不思議の勝ちも負けもありません。

ハリルホジッチ監督は、どのようにして得点を取るように仕向けたのでしょうか?

それは、ボランチを経由しないビルドアップがカギとなりました。

前半の得点を生み、弱点を隠したハリルジャパンの「下地」

タイ戦の前半における日本の決定的な形には一定のパターンが存在しました。

それは以下のとおりです。


①最終ラインからのロングフィード
②それを相手サイドバックの外で受け取るサイドハーフ
③サイドハーフのクロスに合わせる決定力の高い選手



1点目は森重真人のロングフィードを相手SBの外で久保裕也が受け取り

攻撃のデュエルに勝ち、クロスを送り、香川真司が個の力を発揮したものです。

2点目は、セットプレーの流れから、残っていた長友佑都がサイド奥へ。

森重がスラして久保、久保の見事なクロスに岡崎慎司の個の力。


その前の18分には山口蛍の決定的なシュートがありましたが

これも、最終ラインからのフィードから久保を起点にしたもので

香川の正確な落としと山口蛍の3人目の動きによって迎えた決定機でした。

つまり、日本はサイドに張らせたサイドハーフへの最終ラインからのフィードを

この試合における主なビルドアップの手段として用いていたことが窺い知れます。


これは前提と言えるものですが

ビルドアップ=(攻撃の)構築とは、遅攻からシュートに至る過程を示すものであり

用いるパスの長短は問題ではありません。

ただ、長いパスは短いパスと比べて、確実性=パス成功率が落ちます。

そのため、短いパスが選択されることが多いということです。

この日のタイ戦のように、長いパスの成功率が高ければ

それを用いるに越したことはありません。


そして、この再現的に得られていた攻撃のパターンは

サイドハーフのスタートの位置をタッチライン際に設定するという

ハリルホジッチ監督が今まで示してきた基準が下地になっています。

この下地に、大迫とはまた違った岡崎の落ちる動きの質と組み合わせることで

主に久保の裏抜けが武器となっていたということです。


また、長いボールが増えるのであればセカンドボールが重要となります。

ボランチにフィジカルで勝る酒井高徳を選択したのも、そのためでしょう。



スコアレスドローに終わった2次予選のホーム・シンガポール戦では

サイドに張らずに中央に陣取ったサイドハーフと

斜めのパス=サイド奥へのフィードが出なかった後ろの選手が

ハリルホジッチ監督からのものも含めた批判の対象となりました。

そして、それ以降、その基準に沿った試合内容、そして選手起用が行われてきました。


タイ戦の前半の決定機と得点は、チームとしてそれを乗り越えつつあることを示し

また、ボランチのビルドアップの難を隠してしまうものと言えます。

この決定機と得点の量産により、余裕とともに試合を進めることができたのは事実です。

これを導いた積み重ねと準備は「内容」として評価せねばなりません。


付け加えるならば、久保が本田に取って代わったというのは

この基準を理解、実行できるかどうかに懸かっていたということです。

緊急事態で生きた積み重ね

もちろん、日本はいくつかの問題を抱えていました。

最終ラインからサイド奥を使うことは、1つの基準であっても絶対の正義ではなく

あくまで重要な選択肢の1つとして留めなくてはなりません。

CB→ボランチのビルドアップができないというのはハッキリとした問題です。


さらに、サイドのビルドアップにしても

CB→SBからのビルドアップはハッキリ言ってダメでした。

長友と酒井宏樹からのアバウトなボールは

大迫勇也を失った前線をいたずらに困らせるだけのものとなっていました。


これらのビルドアップの不安定さが、攻→守の切り替えを増やしたことなど

守備陣に負担を掛け続けたのは確かな事です。



ただ、この試合で喜ばしかったのは「結果」だけではありませんでした。

「これで勝つんだ!」というハリルホジッチ監督が示し続けてきたことの積み重ねが

ようやく実を結び始めたことを示す「内容」も、同じように喜ばしく思えるものです。


3月シリーズの緊急事態を救ったのは、この積み重ねでした。

次の6月シリーズでは、欧州組はシーズン終了後となるため

より多くの時間を取ることができます。

そこで見せてもらえるのは、やはりこの積み重ねの先にあるものでしょう。

Good!!(0%) Bad!!(0%)

この記事も読んでみる